51th神保「東大の空乱とは」

このページを開いたあなたは、もう体験練習に来てくれたでしょうか。もし来てくれたなら、恐らく『キックミット』や『ハンドミット』をズコンバコンと蹴ったのではないでしょうか(爽快ですよね!)。あの練習が次第に進むと、攻撃だけでなく防御を、そしてより高度なコンビネーションを……と発展していき、ついには実戦形式のスパーリングを行うことになります。これが「空乱」であり、東大拳法部の練習においては大きなウェイトを占めます。この空乱、実は東大独特のもので、他の大学で行われる乱捕りとはやや毛色がことなります(高校時代、少林寺拳法に触れていた方は、戸惑われたかもしれません)。というのも、空乱で扱われるテクニックはキックボクシングの影響を強く受けており、空乱戦のルールもそれを模したものになっているのです。これには歴史的な経緯があります。

かつて少林寺拳法の学生大会では、非常に激しい乱捕りが行われていました。この時代に鍛えられた先輩方は大変頑健で、お年を召された今でも目を見張る腕前の方が多くおられます。一方、激しい乱捕りは、多くの悲惨な事故も生みました。時代の流れの中で、ついに学生大会における乱捕りは禁止され、大会の花形の座は演武に奪われてしまったのです。乱捕りが大会からなくなった。じゃあ演武に専念するか。……そうは行きません。少林寺拳法はあくまでも拳法なのですから。強くあらねばならないのです。こうして各大学で、乱捕りをめぐる試行錯誤が始まりました。

先の流れの中で、残念ながら乱捕りは大きく衰退し、今日「少林寺拳法」で検索をかけると、予測候補に「少林寺拳法 弱い」というワードがあがります(なんたる不名誉!)。しかし、多くの伝統ある大学少林寺拳法部では、かつての乱捕りの遺伝子が受け継がれ、時代に合わせて独自の進化を遂げています。我が東大拳法部の空乱もその一つです。上述の「試行錯誤」の中で、東大の乱捕りはキックボクシングとの融合を果たし、現在の姿になりました。ヘッドガードに始まる防具やルールはもちろんのこと、審判や応援の文化にいたるまで、可能な限り安全への取り組みがなされています。技術面でも、回転の速さや一撃の重さ、華やかな蹴りなど、他の拳法部にはない強みを持つにいたりました。こうして誕生した東大の空乱は、我が部の歴史をその身に刻み、力を支える土台となっています。だからこそ、運用法という形で部分的に乱捕りが解禁された今でも、盛んにこの空乱が行われているのです。

乱捕りというのは残酷なものです。型どおりにこなしたからいい点が付くわけではないし、たとえ自分が上手くやっても、相手がもっとうまくやれば、待つのは敗北に他なりません。術科では満点の技がいとも容易くかわされ、万全な受けが力任せの蹴りに切り裂かれます。乱れを捕えるとの字義のごとく、眼前に迫る拳を見据えながら、自分で考えて動くことが求められます。

だからこそ自由なのです。

あなたの強さを決めるのは、審判のつける点数でも、帯の色でもなく、自らの拳でつかむ勝利に他なりません。無限のアプローチから選びとり、練り上げたスタイルが、「強さ」というシンプル極まりない物差しで他人と比較されます。死に物狂いで自分に合った技を見つけ、鍛錬に打ち込み、自分のものとするのです。もしあなたが空乱を極め、自分のスタイル――流儀をみつけることができたなら。それはもう、ちょっとした「一流の主」です。他の誰も持たない、あなたのオリジナルに他なりません。あなたが拳法で食っていくことは無いにせよ、そこで得られた自信、試行錯誤の経験、そして信念は、人生の流儀として、あなたを一生支える、かけがえのない財産となるでしょう。

我が部の空乱が、あなたの流儀の、最初の一滴となることを願って。

51期 神保泰俊

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